ブナ植林は水道料の高騰を招く
         適地適木からみた横内水源地ブナ植林問題

                 2004/03/28 森林インストラクター 棟方啓爾

●問題点・二つの愚行
横内水源地のブナ植林は、様々な問題をはらんでいますが、中でも次の二点が大きな誤り
と思われます。
  1.ミズナラなど現在林を伐る愚行。
  2.適地適木を無視した愚行。
ここでは、二番目の適地適木について考察してみましょう。

●適地適木とは、
林業事典によればつぎのとおりです。
(right tree for right site)
『林業の場合は、農業と異なり林地の耕耘、土壌改良や施肥を行うことが難しいため、
それぞれの林地の持っている自然の立地条件に合った樹種を選択して植栽することが
重要である。このことを適地適木という。』
要するに、木を植える際の基本概念なのですが、一口に適地適木といっても植える目的に
よってその内容は、さまざま変わって来るように思われます。
ここでは、林業地と水源地に分けて考えてみましょう。

●林業地としての適地適木。
良質の木材をより多く、かつ安価に生産することが主たる目的となる。
適地は、目的とする樹木の生長に適った土壌と搬出に便利であることが主要な条件となる。
適木は、その土地の自然条件と生産目的に適った樹種であることが必要となる。
指針は、土壌型と樹種別に適地適木が明示されている。

●水源地としての適地適木。
良質の水をより多く、かつ安価に持続して流出することが主たる目的となる。
適地は、それ自体水源涵養に適しかつ主たる植物相の生育に適っていることが条件となる。
適木は、その土地の自然条件と水源涵養に適した樹木であることが必要となる。
また水土保全水源涵養能として深根系、浅根系の混在が望ましい等、樹種は、単一樹種で
はなく複数であることが望ましい。
指針は、青森県の場合、計画書指針や条例をみても土壌型別に区分されてはおらず、林業地
に準じて行われているようである。

●ブナは何故駄目なのでしょうか。
1.当該箇所は、ブナよりも他の樹種の適地なのです。
  確かに原植生はブナであったでしょう。地球温暖化を考慮に入れなければ、極性
  相として数百年を経て後またブナ林となるかもしれません。
  しかし現時点では、全体的にブナの適地でないことは明らかです。
  「八甲田の変遷」(岩渕功著1999)などをみてもわかる通り、古くから薪炭林とし
  て繰り返し伐採された結果、現在のミズナラ・クリを優占種とする林相に移行し
  たもので、とりもなおさずブナではないミズナラ等に適した自然環境に変わってい
  るのです。
  八甲田山北面におけるブナ林の生育状況をみると、その生育地は海抜600mから
  1100mの範囲であり、当該地区海抜300m〜400m地帯は、ブナの生育地
  はごく小面積にすぎません。

2.総合的にみてブナは適木でないからです。
 1)根が浅い。
   樹木根系分類では、浅根型に分類され、大部分の根系分布が表層土にあるもので、
   深い土壌での発達は極めて悪いとされております(樹木根系図説・刈住昇・誠文
   堂新光社)。
   保水能力が高いとされる深根型(マツ・スギなど)とはおおよそ正反対です。
   平成15年13号台風関連では、八甲田山系で多くの風倒木が観察されています。
 2)成長が遅い。
   ブナは本来的に天然更新に相応しい樹種であって、人工植栽にはあまりなじまず、
   一般にその成長は遅いとされています。相対的に水土保全・水源涵養機能を期待
   できるのは、かなり後年になるのです。この欠点を補うため大型苗を植える場合 
   もありますが、実際に山地でボランティアが実行するのは容易ではありません。
   以上の事実は、半生を水源涵養林に捧げてこられた島嘉寿雄氏の著書「森とダム・
   人間を潤す」に詳述されておるところです。
 3)結果的に水道料の高騰を招く。
   本来的に、移植が難しくかつ成長が遅いとされているのに加えて、成長の極めて早
   いミズナラ萌芽林の中に植栽されている事実に注意する必要があります。二重の意味
   でここは、ブナの適地ではないのです。
   すなわち期待する水源涵養林に育てるためには、下刈り、つる切り、除伐等々の
   長年月の多大な手入れが必要となるのは、誰でも予測されるところです。
   必然的に、水道料の高騰をまねく結果になることは、火を見るより明らかでしょう。

●森林計画の誤り
青森県地域森林計画(平成12年12月)、青森市森林整備計画(平成13年3月)において
ブナ植林が推奨されている事実をご存じでしょうか。青森県は、水源涵養機能を期待する
目標林型の一つとしてブナの育成単層林(注:単一樹種の人工林)を上げているのです。
一方青森市は、集水区域にブナを積極的に植栽・育成するとしているのです。
この水源涵養林としてブナ植林が好ましいとする事については、なんら科学的実証がなくまさに適地適木を無視した立案者のブナ至上信仰による重大なる誤りといわなければなり
ません。(上記「森とダム・人間を潤す」はじめ多くの文献で、特定の樹種を推薦する事例
は無い)。早急に県及び市に対し是正をせまる必要があるでしょう。

●まとめ
一口に適地適木と言っても、水源地のほうがより厳格に考える必要があります。
林業地は、経営者の思惑により、多少適地適木を逸脱しても、木材価格の影響で好結果を
期待できる場合も想定されますが、水源地は、より適地適木を厳格に適用し、言い換えれ
ばより「自然の法則に従う」ほうが、より少ない投資で良質の水を供給しつづけることが
できるはずだからです。

横内水源地の適地適木を考えた場合、水源涵養林を目的とした植林樹種としては、ブナは
明らかに適木ではありません。
むしろ現在あるミズナラを主体とした森全体こそが、水土保全・水源涵養機能を期待する
場合の真っ当な適地適木なのです。そのミズナラの森を伐採してブナを植林するのは本末
転倒も甚だしく大きな愚行と言わねばなりません。木を植える最も基本とされる適地適木
がブナ至上信仰のため忘れられてしまったのでしょう。
長年水源林保全に関わってこられた経験者のいう「その土地にあった木を育てるのが最も
水源林として理に適っている」が、やはり一番大切なのです。